このコーナーでは、本サイトの(暫定)編集長を務める橋本が、日々の仕事やリサーチを通しながら、様々な芸術祭やアートプロジェクト、表現活動について考えたことなどをご紹介していきます。

9月は、私の実家も近い岡山・牛窓で行われていた牛窓・亜細亜藝術交流祭に合わせて、瀬戸内海の小豆島(醤の郷+坂手港エリア)と粟島に足を運んできました。 瀬戸内海の島でアートと言えばやはり直島(ベネッセアートサイト直島)ですが、この2つの島におけるアートは直島のそれとはかなり方向性を異にしています。

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醤の郷+坂手港プロジェクト〉は、昨年行われた〈瀬戸内国際芸術祭〉に合わせて開始。「観光から関係へ」をテーマに掲げ、芸術祭会期などに合わせてただ作品を置きたくさんの人がそれを見に来る観光的なイベントではなくて、これに関わったアーティストやクリエイター、地域の魅力を知った来訪者がまた何度も足を運び、(あるいはたとえ足を運ばなくとも何らかの形で)関わり続けてくれる関係性をつくっていくことを目指しているプロジェクトです。その2回目のお披露目がこの夏、(次回の芸術祭は2016年なので)独自に設定された会期だったわけですが、まさにこの間にも育まれてきた関係性が生み出す表現や豊かな時間を体験させていただくことができました。

プロジェクトのインフォメーション機能を有する「ei」は、会期中も滞在制作をしているクリエイターの制作拠点にもなっていて、そのプロセスをたくさんの写真とキャプションで見ることが出来ました。来訪者がなかなか「目撃」することのできない出来事や、ここで築き上げられつつある関係性を想起させられるようなショットも多数あり、それを同じ現場(地域)で見・知るという体験には説得力があります。「ただいま文庫」という絵本などが集められているスペースがあったり、ワークショップも行われていたりもしているからか地域の子供の居場所にもなっているようで、親子連れも含めてその姿をよく見かけました。

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面白いのは、そうなったからだと思うのですが、港近くで車も多く通る建物の外に置くための「子供飛び出し注意」の看板を地域のおじさんが真剣な眼差しでつくっていて、そのデザインがヤノベケンジ(港にも作品が展示されている)の代表的な作品《トらやん》をモチーフにした飛び出しくんなのです。プロジェクトのサポートで通っていた京都造形芸術大学の学生が、プログラムから派生する形で自主的に企画したものだとのこと。プロジェクトのために地域に頼るばかりではなく、アーティストやクリエイターの職能を活かし、頼まれて生活や商売のための何かものをつくる、デザインするような、持ちつ持たれつの関係性も出来ていると話には聞いていたのですが、これはその関係性が出来たからこそ生み出された立派な「作品」とも言えるのではないかと思えた瞬間でした。(ちなみにおじさんはペンキを塗っていたのですが、学生にそのコツを教えてもらったとのことでした)

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では表現者の方が何をしていたのか例を挙げると、昨年に引き続き参加している劇団「ままごと」は、正に人との関わりがポイントになる活動をしていました。団員全員でひとつの舞台作品をつくって満を持して成果発表!というやり方ではなくて、滞在期間も異なる団員それぞれがチームをつくり、個々の能力を生かしながら、地域の方々や来訪者と関わる遊びのようなプログラムを随時展開するスタイル。

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例えばeiあたりをふらふらとしていると、自転車に乗った2人が現れて、紙芝居を身体も使いながら楽しく披露。集まってきた方に名前と好きな「醤油の食べ方」を聞き、それを即興で表現する「しょうゆしょうしょう」という洒落っ気のある(小豆島の名産物のひとつである醤油に名前を「かけた」)パフォーマンスも。自然と居合わせた人々が小豆島とどのように関わっているのかなども分かって実に和やかないい時間が流れはじめます。ここでパフォーマーの2人がいかんなく発揮しているのは、その表現力もさておきそれを通した集まった人とのコミュニケーション力、関係性を生み出す力だなぁ、と思わされます。

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他にも、「火の用心」の練り歩きにオリジナルの歌詞と曲をつけてしまい、パフォーマー、地域の方々、来訪者で楽器を鳴らしたり、歌いながらまち歩きをしてしまったり、フェリーの出港や到着に合わせた見送りやお迎えの時間があったりと、人と人の心を豊かにつなぐ様々な試みが行われていました。

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一方楽しいばかりではなく、かつて島に生きていた人、という設定の役者が案内人となって港のまわりを歩く「おさんぽ演劇」は、若者が島を出て行くストーリーであったりと地域の厳しい状況も想起させられるような内容もあり。その鑑賞者もままごとファンやアート好きだけではなくて、関係性ができたからこそ見に来てくれたのかな、という雰囲気の地域の方々の姿も見受けられました。この状況は非常にリアルで、単にモノローグに風景が重なって表現として美しい、サイトスペシフィックだというアート的な見方にとどまらず、それが現実にどう寄り添えるのかということをずっしりと受け止めることになります。

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これらままごとの試みだけをとっても様々な表現のあり方、受け止められ方を目撃させていただいたなという思いで、非常に充実した滞在(2泊)でした。

同じ瀬戸内海でも、小豆島よりはかなり西に位置する粟島では、2010年から香川県と粟島の基礎自治体である三豊市によるアーティスト・イン・レジデンス〈粟島芸術家村 Artist in Residence〉が行われてきました。今年から市単独での継続事業となったようですが、参加作家のひとりが、2007年に都市との対話展、昨年にTokyo Art Research Lab「プロジェクト実践ゼミ」でご一緒した岩田とも子さんであったこともあり足をのばした次第です。成果発表が行われたのは10月18日~26日だったのですが、訪れたのはその約1ヶ月前。40日ほどの滞在を経て、島で発表する取り組みの形が立ち上がりつつある頃でした。

粟島 自然観察船 船になった学校 http://shizenkansatsusen.com/awashima/top.html
粟島滞在記録 http://awashimakagawa.tumblr.com/

tumblrの滞在記録でも確認することができますが、最初は昨年一緒に立ち上げたPPR空想地学研究所のりだったのか、島で目にすることの出来る自然観察をしつつ、植物や貝殻、虫や鳥の羽などの収集をしてきた様子。しかし徐々に、様子見に芸術家村(旧粟島中学校)を訪れる島民の方達がそれぞれに見つけたものを持ってきてくれるようになったそうです。制作スタジオとなっている元教室には、そのコレクションがずらり。

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そして岩田さんは、学校を船の上に見立て季節を航海する「自然観察船」という設定をしていました。朝礼台を船室に見立ててみたり、マストを用意してみたり。粟島には海員養成学校があったということもあり、元船員の方などがそういった彼女にアイデアにどんどんと同調して、制作がコラボレーション的になりつつありました。岩田さんの方でも、帆布で使られたバッグの質感や刺繍を気に入って、その技術を取り入れたオリジナルを制作してみようと、同時期に滞在していた松田唯さんと共にワークショップを行ってみたり(訪問時はその準備をしていました)。

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その楽しそうな様子を滞在記録の中に発見したので、引用しておきます。
ーー
9月18日 【粟島滞在 49日目】
(中略)!!!
ワークショップの合間に自然観察船のマストをたてるための杭を埋めておこうといってくれた船員さんたち。マストの本体を立てるのは来月だな、と私は思っていた。ところが、、、。ワークショップ中にふと外に目をやるとマストが動いている。急いで外へでて記録。いきいきとしている彼らをみたらもうとめられない。マストを見上げて「(雲が流れていくのをみて)今日は船がよー動きよる」「あの雲がヨットが通ったあとだな。」と私よりも先に私っぽいことを言うので面白かった。私も負けじとマストを見上げて「船酔いしそうだ」と言ってみた。
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島民には、手仕事が得意であったり、好きな方がどうも多いようにも思えました。島の中で、ブイを使ったお地蔵さんだとか(瀬戸内国際芸術祭時に見た方も多いと思います)、石や流木への絵付けだとか。

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そんなわけで、新たに島に滞在するアーティストが何をつくるのかに興味がある方も多いのでしょう。今回の2人は、そうやって興味を持ってくれた方々の創造性にも興味を持ち、一緒に制作することを良しとしている。むしろ一緒につくりたいと思っている。

そうしてできた関係性が生み出した表現をここでも垣間見ることが出来たように思います。