ギャラリーや美術館のようにアートのためにつくられた空間ではなくても、様々なかたちでアートを体感できる魅力的な場所が増えてきました。東京・汐留にあるパークホテル東京もそのひとつ。2013年、“日本の美意識を体感する空間”をコンセプトにリブランド。ロビーやレストラン、あらゆるところにアートを感じられる工夫が施されており、海外のお客様に大ヒットしているのだそう。

今回ご紹介するのは、アーティスト自身がホテルに滞在しながら、客室を泊まることのできる作品に仕立て上げる〈アーティストインホテル〉プロジェクト。アーティストが様々な地域に滞在して制作活動を行う仕組み「アーティスト・イン・レジデンス」の言わばホテル版です。例えば絵を描くアーティストであれば、出来上がった作品をただ飾るというわけではありません。空間に合わせて、なんと直に壁へと作品を描いていきます。もちろん天井も同じ。空間そのものが作品といった感じでしょうか。なんとも大胆なこの取り組みは2012年12月にはじまり、現在10部屋がオープンしています。今後も制作が進められ、2016年までに31階の1フロア全てをアーティストルームへと改装。専用ラウンジも設置するする予定だそうです。

実際のお部屋を見せて頂きましたので、いくつかご紹介したいと思います。

 

秋葉生白「禅」

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ダイナミックに壁にかかれた「禅」の文字がインパクト大。部屋の一角には座禅が組めるスペースも。

 

馬籠伸郎「妖怪」

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人を幸せにするという妖怪たちとにっこり笑った河童がキュート。制作期間はなんと4ヶ月を超えたという。

 

院京昌子「百人一首」

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ニューヨーク 在住の書道家・院京昌子が7日間の滞在で制作。百首すべて描かれているのでお気に入りの歌を探すのも楽しい。

 

西川芳孝「竹」

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計算された竹の直線美が、独特の気持ちよさを醸成。竹のカーテンの向こうには富士山がのぞく。

 

成田朱希「金魚」(現在、制作中)

テーマは「妖艶な金魚。」油絵ならではの色の表現も必見。表面の風合いも楽しんでほしい。(「金魚」/成田朱希)
テーマは「妖艶な金魚。」油絵ならではの色の表現も必見。表面の風合いも楽しんでほしい。

日本の美意識をコンセプトに個性豊かな部屋がならびます。アーティストの息づかいがそのまま聞こえてきそうな空間です。滞在中ずっと作品と過ごすことができる。そこにはきっと、美術館やギャラリーにはない作品とのコミュニケーションが生まれるのではないでしょうか。
取材へ伺った際に、ちょうど作品をかきあげたばかりのアーティストにお話を聞くことができました。「桜」を担当された日本画家の大竹寛子さんです。

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日本画家・大竹寛子

 

・制作するにあたり、何からはじめられましたか?

――まずは、試泊といって実際に家具が入った状態のこの部屋でお客様と同じように過ごしました。ここは東京タワーがすごくきれいに見える部屋なんです。どの角度からどんな景色が見えるか。家具の色もみますね。カーテンの赤と天井の色がマッチするようにとか。イメージを膨らませ、プランをたてていきました。

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下絵。ここでまずプランをふくらませた。

・普段の作品づくりとは全く違うかと思うのですが、ご苦労された点は。

――日本画には岩絵具という鉱物を砕いて作った重さのある絵の具を使うんですが、壁に直接描くとたれてしまうので、今回はアクリル絵の具を使いました。そうしたときに、どうやって日本画らしさに近づけるかを考えました。日本画はもともと部屋を仕切るためのふすま絵や建具から発展してきたもの。人の生活の中にあったものなので、考え方は、共通するところがありました。例えば二条城や智積院の障壁画では、角を使って大きな松などが描かれています。そういったところをヒントに金箔を使ったり、部屋の角を利用して大きな桜を描いたりすることで、日本画らしさを表現しました。天井や部屋の角は描きづらくて大変でしたが、今まで経験したことのない、三次元を使った空間表現を楽しんで描きました。

幹の力強さと桜の花の儚さ。そのコントラストが美しい。
幹の力強さと桜の花の儚さ。そのコントラストが美しい。

・この部屋のサブタイトルは「循環」ですが、どんな思いをこめら
れましたか。

――「循環」は私自身の作品づくりのテーマでもあります。実は普段はあまり明るいだけの絵はあまり描きません。どちらかというと美しさの先にある腐敗や循環というものをテーマにすることが多いです。今回はあまりそこにフォーカスはしていませんが、蝶が生まれ死んでいく“蝶の一生”を描いています。それから、この部屋は桜の春だけでなく部屋一周で四季を感じられるようにしています。桜に舞う春の蝶。太陽の光に映える色鮮やかな夏の蝶。枯葉を思わせる秋の蝶。そして、雪をイメージした冬の蝶。そうしてまた春に戻ってくる。“一年の循環”も感じてもらいたいです。

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夏の蝶。一匹一匹、丁寧に描かれている。

・宿泊する方にどんな風に過ごしてもらいたいですか。

――この部屋は東京タワーが目の前で夜景もすごくきれいなんです。しかも夜になるとこのお部屋がまたぜんぜん違う表情になります。桜や蝶が窓に反射して映し出される様子は実に幻想的。特別な日にカップルでシャンパンを飲みながら、なんていうのも素敵ですよね。

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窓から見える絶景。
ひと月ほどの制作期間を経て、完成したこの「桜」の部屋。すでに海外からも問い合わせがあるのだそう。

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さくらの木の下で目覚める朝。特別な日になるだろう。(日中)

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夜桜のもと、贅沢な夜景を楽しむことができる。(夜)

 

日本のアート文化を思う存分体感できるこのホテル。この部屋なら旅の思い出をさらに濃く、印象深いものにしてくれるでしょう。日本のアートを国内外へ情報発信する拠点として、今後も展開が楽しみです。

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25階のアートラウンジでも、随時作品展示が行われている

 

〈アーティストルーム〉

現在以下の11室に泊まることが出来ます。

・木村浩之「相撲」
・秋葉生白「禅」
・竹之内直記「和紙の部屋」
・阿部清子「龍」
・馬籠伸郎「妖怪」
・安元亮祐「十二支」
・院京昌子「百人一首」
・石原七生「祭り」
・西川芳孝「竹」
・右田啓子「銭湯」
・大竹寛子「桜」

予約・問い合わせ:03-6252-1100
販売料金:1室2名利用 35,000円〜 ※部屋により料金が異なります(税金・サービス料・宿泊税を含む)

 

〈「冬の動物園」展〉

25階のアートラウンジで、8人のアーティストによる動物をテーマにした展覧会を開催中(31階特別展示も同時開催)。

会期:2014年12月15日(月)〜2015年3月1日(日)11:30〜22:00
参加アーティスト:安元亮祐、室麻衣子、小飯塚祐八、柳ヨシカズ、呉亜沙、金丸悠児、住吉明子、西村沙由里、池田満寿夫&谷川晃一(31階特別展示)
入場無料、期間中無休(臨時イベント時を除く)

 

パークホテル東京

〒105-7227 東京都港区東新橋1丁目7番1号 汐留メディアタワー
http://www.parkhoteltokyo.com/
http://www.parkhoteltokyo.com/artcolours/vol11.html(アーティストインホテルおよび「冬の動物園」展紹介ページ)