このコーナーでは、本サイトの(暫定)編集長を務める橋本が、日々の仕事やリサーチを通しながら、様々な芸術祭やアートプロジェクト、表現活動について考えたことなどをご紹介していきます。

例によりすっかり滞ってしまっているこの編集長コラムですが、2014年度の下半期分をまとめて更新いたします。

【10月】
逗子アートサイト http://zushi-artsite.com/

逗子市の市制60周年の記念事業〈逗子アートフェスティバル2014(ZAF2014)〉の一環として、中之条ビエンナーレのディレクションなどで知られる山重徹夫さんがディレクターを務めるアートプロジェクト。駆け足でツアーのみお邪魔しましたが駅前の遊休施設や海辺、公園などを上手く使っていました。ただ広報も弱いしツアーも関係者ばかりの雰囲気で(ゆかりのある参加アーティストの方も多いようで、それはそれでよいのですが)、せっかくなのに少々もったいない印象でした。
ZAF2014の傘の下で市民プロジェクトと並列になっていたり、先駆けて行われていた〈逗子メディアアートフェスティバル〉改め〈メディアーツ逗子〉も開催されていたりする中で、現場はいいのだけど枠の中で埋もれてしまっている状態。複合的な事業にありがちな課題です。
そして偶然にも近くで、日本の個性的なゲストハウスを紹介するメディア「ゲストハウスプレス」のファンミーティングがあり、そちらにもお邪魔して地域に根ざしたアートプロジェクトを伝える場のヒントをいただいてきました。

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国立奥多摩美術館 http://moao.jp/

台風一過で傍らの川も大増水の中、モデルルームというスペースとのはしごでお邪魔しました。どちらもひと言で言ってしまえば、東京の郊外部にあるオルタナティブスペースということになると思うのですが、奥多摩の方はあえて「美術館」を名乗りアーティスティックないかがわしさを加えることで、不思議にも質の高いアートプロジェクトに見えてくるという絶妙なバランスを持ち合わせた事例だと思いました。

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釜ヶ崎芸術大学 in ヨコトリ「まっかなおつきさんを見る会」 http://www.yokohamatriennale.jp/2014/event/2014/07/post27.html

雲が厚くて月は見えませんでしたが、釜芸がヨコトリの中で行ったいくつかのイベントの中では、個人的に最も釜ヶ崎とのつながりを感じることのできる内容でした。ホストの尾久土正巳さん(天文学者)がなぜ釜芸に参加するようになったのか。「天文学が生きる力になる」とは。天体観測にはインターネットでそれぞれの場所から見える景色を共有するカルチャーがあって、そのなかで同じ日の釜ヶ崎がどんな感じなのかをスカイプで対話しながら同じ空を見上げる。あちらでは見えていた皆既月食の雰囲気が伝わってきて、横浜にいながら、釜芸 in 釜ヶ崎な時間を感じることができたのです。

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Red Bull Music Academy Tokyo 2014 http://www.redbullmusicacademy.jp/jp/magazine/red-bull-music-academy-tokyo-2014-open-house

世界各地からプロフェッショナルが集まる音楽学校をつくりながら、様々なイベントを展開しているRed Bull Music Academyなるものが東京に。拠点となるスタジオもオープンするということで、ハウス・ウォーミング・パーティーが開催されました。隈研吾によってつくられた音楽創作のための空間に、窪田研二さんのキュレーションにより加藤泉、Chim↑Pom、西野達、山川冬樹、狩野哲郎ら現代アーティストの作品が当たり前のように点在するぜいたくな風景は、クリエイティブスタジオにふさわしいと思う一方で、日本ではなかなか見ることのできないものであることを思い知らされました。
アートプロジェクトも取り上げている独自編集のオンライン・マガジン「RBMA Magazine」にも注目です。

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国東半島芸術祭/ケベス祭り http://kunisaki.asia/

3月にレジデンスプロジェクトの一部や、アントニー・ゴームリー作品をひと足先に見ていた芸術祭をじっくりと…と思っていたのですが、なんと台風直撃。国東入り早々、丸一日をホテルで過ごす羽目になりましたが、天候回復後にBeppu Projectの田島さんがスピードツアーをしてくださり、全体的な雰囲気をつかむことができました。ゴームリー作品もそうでしたが、プロジェクトのひとつひとつが国東半島というサイトを深く読み込んでつくられていて、アートとしての完成度が高いと思いました。また、時間をかけて準備してきた甲斐あってか、各地域の受け入れ、運営体制レベルが非常に高いのです。これはプロがしっかり入っていて贅沢ということではなく、等身大の解説対応やおもてなしなどか充実しているという意味において、です。
必ずしもアートそのものの理解ありきではなく、まずそれを作り上げる人々と地域の人々の関係性が育まれ、その傍らでプロジェクトが立ち上がる。つくり上げる作品はパブリックアート的なもの(彫刻など)であっても、それが出来上がるプロセスに関わる人がいたり、見守る人がいたりする。そんな中で出来上がる作品は、地域の人々それぞれの眼差しの中で理解され、語られるようになっているのです。そんな、地域と関わる芸術祭のひとつの理想的なスタイルを体験することができたと思いました。
そしてもうひとつのハイライトは、ディレクターの山出さんが必ず見て欲しいと言っていた、起源が謎に包まれているケベス祭り。おごそかで神事的な前半とうって変わり、トウバが撒き散らす火の中で歓声がわくお祭り騒ぎの後半は、実に不思議で楽しい風景でした。こういった謎の神事や火祭りが数ある国東の地場そのものも感じることでまた、芸術祭への理解が深まったように思います。

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ミタケオヤシン http://mitaoya.com/

「引き興し」というアートプロジェクトを各地で展開する加藤翼が、アメリカのスタンディングロック・インディアン居留地で取り組んだプロジェクトの様子を追ったドキュメンタリー映画。アーティストとプロジェクトに関わった人の声、ひと通りの苦労と成功の瞬間までがひと通りおさめられていて、きれいにまとまりすぎているのではと思うくらいによくできている作品だと思いました。

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(c) Group Gendai

 

TRANS ARTS TOKYO 2014 http://2014.kanda-tat.com/

2012年から、旧電気大学跡地など神田エリアを活用して進めているTAT。初見のパトリシア・ピッチニーニ気球作品《Skywhale》、学生の時からしばしばお手伝いしてきた椿昇+室井尚作品《インセクト・ワールド-飛蝗》など大型プロジェクトが見応えあり、灰色のビル街にぽっかりできた空き地に彩りを添えていました。その地下のビル跡に広がる大空間に負けない平面作品を展示・公開制作した加茂昂、佐藤直樹さんのプロジェクトも意欲的で印象に残っています。時期により展示・イベントの入れ替わりもあり、キャンプやDOMMUNE、DANCE TRUCK PROJECTなど見れなかったものも多数。
ちょうど、企画に携わるTokyo Art Research LabでもTATの企画や運営についてお話を聞く機会があり、そのビジョンの大きさに驚きつつ、これからの展開にも注目していきたいプロジェクトです。

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【11月】
高山明/Port B 《横浜コミューン》 http://www.yokohamatriennale.jp/2014/event/2014/07/post36.html

ヨコハマトリエンナーレ2014出品作品ですが、美術館での展示が会期終盤にまちに飛び出すという設定で、nitehi worksというイベントスペースでライブ・インスタレーションとして公開されました。インドシナ難民と寿町の住人が出演者として会話する姿を観客はラジオを使った装置で盗み聞くという構造に違和感を感じた方もいたようですが、出演者たちは作品のことをよく理解して参加していたし、その効果が内容にも実によく反映していた作品だったと思います。

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国東半島芸術祭:希望の原理 http://kunisaki.asia/kibounogenri

10月に見逃した宮島達男作品と、勅使川原三郎のパフォーマンスを見るために再訪しました。また、かなり変わった形式の展覧会になっていたレジデンスプロジェクト「希望の原理」も改めてゆっくりと見学。何が変わっているのかというと、現代アーティストだけではなく、大分の工芸品である小鹿田焼だとか、農民彫刻家として 知られる皆川嘉左ヱ門などが参加している上に、旧役場に点在する作品にはキャプションが添えられておらず「美術展」としての鑑賞ルールを持ち込めないようになっているのです。
これはある種、作法に慣れただけの美術ファンを突き放し、誰もが持ちうる「ものを見る力」「人の表現に反応する力」を信じてそうしたのでしょう。そうやってつくられた空間を地元の方々と一緒になって体験するのはなかなかスリリングなひと時でした。
タイミング良く、東京でも「希望の原理」について語る会 が行われましたが、そこでプロダクション・マネージャーの長内綾子さんに聞いたところ、ディレクターの遠藤水城は1作家1メディアというルールは設けていたそうで、確かに作品による作者の違いをヒントが少ない中で意識させる工夫と捉えることができると思いました。

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【12月】
Imagineering OKAYAMA ART PROJECT http://okayama-mirai.jp/imagineering/

実家のある岡山市の市街地で、歴史まちづくり回遊社会実験「岡山未来プロジェクト」の一環としてアートプロジェクトが行われているということで、駆け足でその様子を拝見。もうひとつの柱である旧内山下小学校を活用する「ハイコーチャレンジ!!」に携わるNPOの方にもお話をうかがってきました。
アートプロジェクトの方は、プロジェクトメンバーの石川康晴(株式会社クロスカンパニー 代表取締役社長/石川文化振興財団 代表理事)による「石川コレクション」をビルの空きテナントや廃校、岡山城の敷地、一部の公道や建物壁面などにただ設置してみたという印象。作品そのものはいいものもあるのですが、残念ながら芸術祭やアートプロジェクトとしてのインパクトはあまりなく、集客と回遊効果を高めるための誘導、アートプロジェクトへの興味の有無に関わらず地域・市民の関わりも、掲げているコンセプトに対して弱いのではないかと感じさせられました。展示中止になった作品の案内もウェブサイトやインフォメーションできちんとできていなくてもうひと頑張りしてもらいたかった…

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道後オンセナート2014 http://www.dogoonsenart.com/

1泊の予定が急遽岡山を入れたため日帰りでの訪問。さすがに観光する時間はないと思ってオンセナートのサイトの情報だけ見ていたのも災して、展示会場のひとつでもある道後温泉本館の年1回の休館日に当たってしまいました。そこで急遽、予約が必要なHOTEL HORIZONTALの見学を中心に切り替えたのですが、各旅館・ホテルがアートルームを「ついでに見せてあげる」という感じではなく、自分たちできちんと案内・解説をする、場所によっては休憩をしてもらうことを前提で準備しているなど、サービスとしてきちんと対応している姿勢が印象的でした。作品もそれぞれが制作費を拠出しているということで力の入ったそれだけに、やはり1泊できなかったことが悔やまれるのでした。

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つながる湾プロジェクト http://tsunagaruwan.com/

特集記事掲載のための取材を兼ねて訪問。拠点の塩竈(宮城)は過去に訪れたことがあるのですが、震災後に東北地方の沿岸部を訪れるのは実質はじめての体験でした。これがなかったらもっと先になっていたかもしれない。そしてそこでは、アートプロジェクトによって紡がれた人々の記憶や、関係性を見聞きすることができました。インタビュー収録のため、増田拓史さんが拠点を構える石巻にも足をのばし、非常によい体験をさせていただきました。

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東京藝術大学博士審査展 http://dr-exhibition.geidai.ac.jp/

このサイトでも度々その活動を取り上げている北澤潤さんの展示を見るために足を運びました。各地でまちなかのアートプロジェクトを手がけている北澤さんが展示していたのは、それに関わる大量の資料アーカイブと、「もうひとつの日常」を掲げて活動する自身の日々の行動(日常)。まちなかの活動が主だとしても、こういった展示の場でアーティストが自らの仕事を定期的に示し、残していくのは大事なことです。

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【1月】
パークホテル〈アーティストインホテル〉 http://www.parkhoteltokyo.com/artcolours/aih.html

取材記事制作のため訪問。話を聞いてみないと分からないことは多いのですが、このプロジェクトはアーティストが納得いくまで制作時間を費やしたり、完成後の取り扱いなどにも気を使っていたりとかなり力を入れて取り組んでいることが分かりました。アーティスト・イン・レジデンスの思想で滞在しながら制作できるのも面白いポイントだと思います。

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【2月】
釜ヶ崎芸術大学2014成果発表会「釜ヶ崎オ!ペラ」 http://cocoroom.org/project/k-opera/

ヨコハマトリエンナーレ2015にも参加した「釜ヶ崎芸術大学」の成果発表という設定でしたが、2003年にフェスティバルゲートで活動を開始、2008年に西成に拠点を移し、カフェのふりをしながら様々な団体や個人と関係をむすんできたココルームの集大成とも言える素晴らしい現場でした。
会場に入ると、いっぱいに飾り付けられた作品の数々。たくさんの運営スタッフ、様々な年齢・風貌の観客が楽しそうに開演を待つ雰囲気に期待が膨らみます。豪華出演陣でオープニングを迎え、ココルームの代表である上田假奈代さんがこの場に込めた思いを堂々と朗読する姿に涙を流した後は、釜ヶ崎芸術大学に様々な形で参加してきた方々のプログラムを心ゆくまで楽しみました。
長い時間をかけて、しんどい場所で、多くの人々に寄り添い表現の価値を伝えてきた結果が正にここにあったと思います。

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KYOTO ART HOSTEL kumagusuku http://kumagusuku.info/

以前、インタビュー記事で取り上げたクマグスクがオープンしたということで早速利用。四条大宮から5分となかなか便利な場所にあるし、センスあるリノベーションで快適に過ごせる空間でした。アート作品については企画展の形式をとり、半年〜1年で展示替えをしていくとのこと。京都訪問の度に利用することになりそうです。

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第7回 恵比寿映像祭 http://www.yebizo.com/

写真美術館が改装中ということで、周辺施設を活用しての展示。映像祭ということでどうしてもまちに出ることは難しいのだけど、瀬田なつき《5windows》は新たなカットの追加や展示の方法を工夫していて、これまでのリメイクの中では最も効果的な演出ができていたように思います。

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【3月】
39 アート in 向島 http://39art-mukoujima.info/

かつて〈墨東まち見世(2009-2012)〉というアートプロジェクトで関わっていた墨田区・向島(墨東エリア)ですが、毎年3月に自主的に時期を合わせてアートイベントなどをネットワーク型で展開しています。舞台はカフェであったり、週末ギャラリーのようなスペースであったり、アトリエであったり、廃工場であったり、自宅であったり。当然、アーティストの活動も多いのですが、「ドンツキ研究室(ラボ)玉ノ井部会」という名前で、路地の行き止まり(ドンツキ)にからめた研究活動などを行っている「ドンツキ協会」が、かつてのまちの痕跡をかなり詳細に調べてまち歩きを行っていたのは何と表現したらいいのでしょうか。とてもいいと思います。ノマドプロダクションでも、便乗して公開勉強会を開催しました。

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Public Art Research Center 4[ PARC 4 : Open Studio ]
http://www.sapporoekimae-management.jp/2015/03/09/public-art-research-center-4-parc-4-open-studio/

オープンミーティングに招待いただき、札幌駅前通地下歩行空間のイベントに参加。札幌国際芸術祭の会場(インフォメーション)としても使われていた場所ですが、通常時には様々な企業・団体に貸し出しをしたり、広告スペースの運用をまちづくり会社が行うことでお金を稼ぎ、折を見てこのようなアートイベントを企画しているようです。
とにかく人通りが多いのだけれども、目的あって歩いている人は展示やイベントにはなかなか足を止めてくれません。そんな中ですが、オープンスタジオやミーティングという設定でアーティストや私のような人間が集まり作業やらディスカッションをするシチュエーションというのはなかなか面白く、不思議な体験でした。
また、北澤潤さんが普段は子供向けに行っているワークショップを一般向けにしてくれた「マイタウンマーケット発想法」にも参加することができ、彼の携わる現場への想像が少し膨らみました。大人がやると変な思惑も増えてきてかなり雰囲気は違うのでしょうが。
余談ですが、滞在させていただいていた「さっぽろ天神山アートスタジオ」では辻憲行さんを招いて『関係性の美学』を3日間に渡って読み解くイベント「芸術係数」なども行われていてこちらにも多数の参加者が。私は上記のイベントのため一部しか参加できませんでしたが、アートプロジェクト/プロジェクト型のアートに対する関心が札幌の若い人の間でも高まっていることを感じさせられました。

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