projectart.jp編集部独自の視点でお届けしていく特集シリーズ。第一弾は、〈瀬戸内国際芸術祭2013〉でにぎわう瀬戸内海の小豆島坂手港近くで、期間限定の宿泊型のアートプロジェクト/スペース《クマグスク – kumagusuku –》をしかけた矢津吉隆さん(アーティスト)へのインタビューです。

聞き手は、実際に宿泊体験をした編集長の橋本が務めさせていただきましたが、本サイトのコンセプトとも共感する部分が多く、対談のように充実した対話の内容を反映した記事となりました。

クマグスクは、京都で今後の展開がある模様。本サイトと共に、継続して注目いただければと思います!

2014年1月23日VOXXN CAFE(京都)にて収録
構成:川村彩乃+編集部

矢津吉隆(美術家、kumagusuku代表)
大阪府生まれ。京都市立芸術大学美術科彫刻専攻卒業。京都を拠点に2006年までAntennaに所属しグループで活動、2007年より個人での活動を開始する。立体作品から平面、3D立体映像を用いたインスタレーションまで、様々な媒体で「第六感と表象」を主題として作品を制作。第13回岡本太郎現代芸術賞入選。2013年、『kumagusuku』として、瀬戸内国際芸術祭 2013 の夏秋会期 に小豆島の醤の郷・坂手港プロジェクトに自主参加。同年、フランスブザンソンISBAでのAIRプログラムに参加し個展を開催。
http://www.yazuyoshitaka.com

クマグスク – kumagusuku –
クマグスクは小豆島坂手にある観音寺の宿坊を改装した滞在型アートスペース。『瀬戸内国際芸術祭2013 小豆島醤の郷+坂手港プロジェクト』の関連企画として開催された。訪れた鑑賞者が非日常的かつ日常的な空間に一晩滞在することで、身体感覚をともなった行為として濃密な美術体験を得ることができる場を提示した。美術作品を「鑑賞」することから「経験」することへと転換させ、新たな美術空間を探る挑戦だった。
宿坊から独立した浴室にて、土屋信子が島で収拾した廃材を使いダイナミックかつ繊細なインスタレーションを展開。衣服を脱ぎ“裸”になって体感するという、研ぎすまされた作品体験へと鑑賞者を誘(いざな)った。尚、この企画は小豆島町後援のもと地元自治組織との共催というかたちで開催された。
2014年11月、京都市中京区にてKYOTO ART HOSTEL kumagusukuとして開業予定。
http://kumagusuku.info/

瀬戸内国際芸術祭2013「醤の郷・坂手港プロジェクト」
http://relational-tourism.jp/

Colocal コロカル「小豆島日記 #016」での紹介記事
http://colocal.jp/topics/lifestyle/shodoshima/20130729_22446.html

 

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矢津吉隆さん

橋本:本日はお忙しいところ、媒体資料もまだできていないサイトのインタビューに応じていただいて、ありがとうございます。

矢津:いえいえ、面白そうな活動で。よい形になればいいのですが。小豆島へ来てもらった時にはあまり話ができませんでしたので、いろいろ聞いてください。

橋本:今回のサイトですが、〈瀬戸内国際芸術祭〉(以下、瀬戸芸)のように、地域に根ざした芸術祭や、いわゆる「芸術」「アート」にとどまらない、様々な意味で広がりのある表現活動や実験的なプロジェクトを積極的に紹介していきたいと思ってます。言い方を変えると、既存のアート系媒体でメインにはなりにくいラインのものを軸に取り上げていきます。

美術館やギャラリーでの体験も好きだし、もちろんある程度は紹介していきたいですが、クマグスクのような体験はやはり強烈で、個人的にはそういったものこそシェアしていきたいし、他の人の体験ももっと見聞きしていきたいんですよね。新しい情報も欲しい。それが叶う媒体がなかなかないので、つくってみます、ということなんです(笑)。

矢津:そうでしたか。

小豆島では僕と井上大輔(アーティスト)が中心になって企画を行いましたが、実は京都であらためて、ひとりの個人事業として再スタートさせる予定もありますので、ありがたい機会です。

橋本:そうそう、京都が拠点ですよね。

矢津さんと井上さんは、それぞれどんな感じて活動されてきたのでしょうか。

矢津:僕も井上もそれぞれ京都の芸大を卒業して、僕はそのまま京都で活動をつづけ、井上は金沢に活動の拠点を移して、それぞれ違った場所で作家活動をしてきました。クマグスクで一緒にやるまでは年末年始に仲間内で集まるくらいで一緒に何かをするってことはなかったですね。でも、作家として個展やグループ展で作品を発表したり、大学で教えたりしながらも作家業では食えないという、僕らと同年代の作家が持っている共通の問題意識みたいなものはあったように思いますね。

僕は卒業後、数年はAntennaというアーティストグループに所属してグループで作品制作をしていました。2007年からは個人で活動するようになるのですが、Antenna時代にヤノベケンジさんやデザイナーの原田祐馬さんらに出会い一緒に仕事をさせてもらったりしたのが美術の世界に入ったきっかけです。

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矢津吉隆 “Katsina -beast-” 2011 photo: Takumi Ota

橋本:ではなぜ小豆島の、あの場所でやることになったのかというあたりを聞きたいのですが。

矢津:元々は小豆島ではなくて、京都でやろうと思っていたプロジェクトなんです。ずっと場所を探していたんですが、アートスペースとして成立しそうで、かつ宿泊も可能となるとなかなか簡単には見つからない条件なんですよね。

デザイナーであったり、建築家であったり、今まで京都で築いてきたネットワークの中でプロジェクトを立ち上げようとしていたんですが、その中でデザイナーとして長くお世話になっている原田祐馬さんが瀬戸芸に関わっていました。クマグスクのことを話す中で、おそらく向こうとしても何か可能性が見えてきたんでしょうね。島に宿泊場所が少ないことだとか、宿坊のあるお寺の活用をしたかったりとかがあったみたいで、時期も重なった。

それで瀬戸芸の期間中に実験的な形でやってみよう、ということになりました。

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観音寺(境内)photo: Yoshihiro Masuda
お寺の敷地内、本堂の脇にある宿坊がクマグスクとして活用された

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観音寺(裏手)、クマグスク(テラス)photo: Yoshihiro Masuda
鑑賞スペースと滞在スペースをつなぐようにテラスがつくられた

橋本:じゃあ、あの鑑賞と宿泊という体験を抱き合わせるスタイルは、場所から発想したわけではなくて、元々想定していたかたちなんですね。

矢津:そうです。ゲストハウスのような、人とのコミュニケーションを含めた体験のできるスタイルを想定してました。

〈大地の芸術祭〉の《光の館》や《夢の家》のような、アートの中に包まれているホテルみたいな例はもちろん知ってますが、そういったものとは違う形で、アートの体験をつくりたい。ゲストハウスのように、ホテルより生活の営みに近いに近い形態で行いたい、というのがありました。

橋本:ゲストハウス、いいですよね。僕もここ1-2年はまってきていまして、特にひとりで遠出をする時は、できるだけゲストハウスを探して、そこでの思いがけない人や情報、出来事との出会いを期待してしまっているところがあります。この後も、仕事で神戸に呼ばれていますが、ホテルでなくてわざわざ新開地のユメノマドというゲストハウスをおさえてもらいました(笑)。

矢津:僕は沖縄でゲストハウスに泊まった時の経験から、いいなと思ってました。

10年くらいアーティストの活動を続けてきて、心地よくも閉じたアートの世界に何か閉塞感を感じているところもあって。

これをやってみようと思ったのは2012年の10月くらいです。この段階では瀬戸芸はかなり進行していたので、それに後から乗っかる感じでした。

橋本:生活と表現の距離を縮めることには意識があったとのことですが、表現を届ける相手については意識してましたか。というのは、僕は近頃、アートフリークみたいな人だけが体験している表現にはある種の不幸すら感じる時がありまして、このサイトもなんですが、アートには少しだけしか興味が無い人にもきちんとアプローチしたい、みたいな思いがあります。

矢津:さっき例に出した光の館とかに行く人って、どちらかと言えばアートフリークですよね。クマグスクが器にしたゲストハウスという形態は、むしろフリークじゃない人を取り込みます。

例えばブルータスのアート特集みたいなのを読んで、普段はアートとか見ないけど面白そうだなと興味を持って偶然足を運ぶような人たち。その人たちは日常的にそういうところにはいかないけど、観光のついでという感じで瀬戸芸やクマグスクに来てくれるかもしれない。

そういう人たちに、アートに関わる機会をもっと増やして欲しいと思ってます。

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瀬戸芸期間中の小豆島坂手港 作品はヤノベケンジ《THE STAR ANGER》
クマグスクから坂手港は徒歩約5分、小高い場所から港を一望することができる

橋本:表現そのものだけではなく、仕組みも強く意識したプロジェクトだったわけですね。

矢津:こういった場で見せる作品には、いろんな形があっていいと思う。僕はアーティストだから自分でも作品をつくるし、アイデアもあるけれど、むしろ僕とは違う発想で企画をしてもらうことで、自分の想像を越える状況がつくれるかもしれない。そういう場にできると面白いと思います。

だからあえて、椿玲子さんというキュレーターにお願いをして、土屋信子さんというアーティストをコーディネートしてもらいました。

橋本:土屋さんは、お寺で何かやるイメージなんかが全然なくて、ホワイトキューブ(美術館やギャラリー的な空間)で生きるタイプのアーティストですからね。とても意外性があったので、いったいどんな感じになっているのだろうかと気になって、最初に情報をもらった時に絶対泊まってみようと思った記憶があります。

お客さんの反応はどうでしたか。狙い通りにいきましたか?

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左:土屋信子「Ace of heart vol.7」photo: Yoshihiro Masuda
浴室を改装して、ギャラリーのように非日常的な空間となった巨大なシャワー室にインスタレーションされた作品。滞在客はここに裸で足を踏み入れ、奇妙なかたちをした樹脂と金属片が組み合わされたオブジェが配置されている中を移動し、シャワーを浴びる。オブジェそのものを鑑賞するというよりは、それがあることで空間全体が何か装置のようなものに感じられ、自らの身体が歪んだ時空に放り込まれるかのような感覚に襲われる。

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右:土屋信子「Ace of heart vol.7」photo: Yoshihiro Masuda

矢津:想像していたより、作品に感動してくれるお客さんが多かったように思います。

自分が作品そのものを手がけたわけではないんですが、空間は一緒につくっていたので結局つくり手の立場になってしまって、あまり冷静に受け止められませんでしたが(笑)。

美術館とかで展示していると、見に来た人の反応ってあまり分からないんですよね。クマグスクのやり方だと、まずゲストハウスとして迎え入れた方が作品と出会う流れがあるので、かなり近い距離感で反応を観察させてもらえるし、滞在時間も長いから話も聞きやすい。こんな機会は以外に少ないんです。

橋本:なるほど。確かに美術館とかだと「作品」を「鑑賞」するという形式が当たり前になりすぎているし、アーティストは現場に立ち会いにくいですからね。ホストとして自然なかたちで作品に寄り添えて、一緒に体験できる感じはつくり手としても面白そうです。

見る側としても、シャワー室だから(複数人でも入れるけど)まず1人で見てみて、同じ立場の宿泊者と感想を言い合ってみて、ホストのスタッフと話してみるみたいな感じで他人の言葉や反応も借りながらじっくり咀嚼していく感じがあり、新鮮でした。

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左:クマグスク(エントランス)photo: Yoshihiro Masuda
チェックインは、ギャラリーのように上品なカウンターで。日中は、滞在客以外のシャワー室鑑賞を受け付けた。

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右:クマグスク(客室)photo: Yoshihiro Masuda
簡素ながら、センスよく設えられたドミトリーの客室。別途、個室(和室)も用意された。

矢津:作品を見てどんなことを感じたのか聞く、というより、話したいという感じの人が多かったことにも驚きました。気になったことを確認したがっていたのではないかと思います。

近いところで言えば、お寺の住職さんも感想なのか、解説なのかしたがってくれて、しまいには文章をプリントして、お客さんに読んでもらえるようにしました。

橋本:あれはだいぶ気合いが入ってましたね(笑)。

いずれにしても、何か押しつけがましい解説があるのではなくて、でも多様な感想とか、解釈とか、つくり手の言葉にゆっくりとふれられるのは贅沢な時間でした。

矢津:あまり誘導はしない、先入観なく見てもらいたい、というのはありました。

来る人がやはり、積極性のある人が多かったのが良かったと思いますが、能動的に体験してもらって、そこから作品の良さや過ごしてもらう時間の質が引き出されていくのが理想です。

橋本:まさにゲストハウス的な空間が生きましたね。

ホストも滞在者もそれぞれの時間を尊重はするわけですが、自然に浸食もしてくるし、言葉を投げれば返ってくる。たまたま居合わせた人とのコミュニケーションや情報の共有を厭わず、むしろ互いの行動に役立てるカルチャーがそこにあるわけですが、ここで鑑賞体験が共有されるというのが良かったです。

もちろん、それだけでなくて普通に瀬戸芸や島の情報も交換したり、お互いの身の上話もしたりして、会期末で夜は寒くなりつつあるテラスですっかり身体を冷やしてしまうわけですが。

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左:クマグスク(2階テラス)photo: Yoshihiro Masuda

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右:クマグスク(1階テラス)photo: Yoshihiro Masuda

矢津:テラスは泊まった人が歓談できる場所としてわざわざ用意したわけですが、本当はやはり屋内に欲しかった。やはり寒くも暑くもなるので。

間取りの制限もあって、やりたいことが全部できたかといえば、そうではないです。半分くらい。共同スペースなど、全体を含めてもっとアート性のある空間をつくりたかった。今回はその気持ちも抑えて、展示スペースをはっきりさせたところもあります。

橋本:そうだったんですね。

それでは、次に考えている京都でのプランは少し違ったアプローチになるということでしょうか。今後の話をぜひ聞かせてください。

矢津:そうですね。今、京都の中心のほうに場所が見つかって建築家さんに設計してもらっている段階なのですが、より作品と人の距離が近い濃密な空間になりそうです。古い戦後の木造建築をリノベーションするんですが、既存の壁や床を最大限利用するなど、京都の歴史や生活といった要素も入ってくることで面白い空間に仕上がりそうです。小豆島に比べて、より建築的なアプローチができるので、建築が出来上がってから様々なアイデアを刺激してくれるような場になればいいなと思っています。

展覧会の企画も、今回はさらに若いキュレーターにお願いしていて、どんな挑戦ができるかそれも楽しみです。アーティストやキュレーター、デザイナーや建築家と一緒になって企みなから、新しい展覧会のかたちを実践していけるような場所にしていく予定です。なんとか今年中にはオープンしたいと思っているので、よろしくお願いします!

橋本:拠点にしている京都での企画ということで、かなり骨太なものになりそうですね。

今日はありがとうございました。こちらがこの媒体で紹介したいと思っている方向性に、ここまでど真ん中で応えてくれていたプロジェクトだとは思っていなかったので、嬉しい驚きでした。

それでは、京都の新しいプロジェクトのオープンを楽しみに心待ちにしまして、また取材にうかがいたいと思います!

 

クマグスク – kumagusuku –

期間:2013年7月20日〜11月4日
企画:矢津吉隆(現代美術作家)、井上大輔(現代美術作家)
企画アドバイザー:椿玲子(森美術館アソシエイト・キュレーター)
出品作家:土屋信子(現代美術作家)
後援:小豆島町坂手地区自治会、小豆島町
共催:坂手んごんごクラブ
空間構成:dot architects(建築家)
グラフィックデザイン:UMA / Design farm
作庭デザイン:ZZZ design studio
協力:Arts and Law、おかひろし、観音寺、行政書士藤本寛事務所、京都造形芸術大学ウルトラファクトリー、小鐵裕子、実近修平、SCAI THE BATHHOUSE、多田智美

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