このコーナーでは、本サイトの(暫定)編集長を務める橋本が、日々の仕事やリサーチを通しながら、様々な芸術祭やアートプロジェクト、表現活動について考えたことなどをご紹介していきます。

年度末の多忙を極める時期に、無理矢理時間をとって大分県へ足を運んできました。タイトルでお分かりの方もいるかもしれませんが、2009年に別府市で国際芸術フェスティバル〈混浴温泉世界〉をたちあげたNPO法人BEPPU PROJECTなどが担い手となり、各所でアート活動が盛んになってきています。

国東半島(豊後高田市、国東市)では、この秋に開催予定の〈国東半島芸術祭〉へ向けて、2012年からアートツアーやアーティスト・イン・レジデンス、常設型アート作品の制作などが行われています。

この3月に行われていたのは、アーティスト・イン・レジデンスの成果や、新設したアート作品のお披露目、それらをめぐるツアープログラムでした。その様子はオフィシャルサイトのブログによくまとめられています。

このような機会を利用して作品を見に行くことは大前提なのですが、それがどのように地域に受け入れられているのか、そもそも国東という地はどのような場所なのかが、私としては気になるところでした。特に今回、アントニー・ゴームリーが制作した作品の設置に反対する声が上がり、議論が巻き起こっているという「千燈プロジェクト」の様子を知りたかったこともあり、1日目はそこも含めてまわるツアーに参加してきました。

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アントニー・ゴームリーによる「千燈プロジェクト」
険しい山道を行くと、断崖絶壁にアーティスト本人が型となった鉄の彫刻が佇んでいる

大分空港から別府駅まで約9時間のツアーでしたが、作品ポイントは2ヵ所に絞られており、多くの時間は移動や山登りに費やす行程になっていました。「三人よれば文殊の知恵」の文殊菩薩をおまつりしている文殊仙寺での護摩焚き祈願も特別に組み入れられていたり、昼食ではたこ飯が用意されていたりと、忙しく作品ポイントをまわるよりも、丁寧に国東という土地についても知りながらまわりたいと考えていた自分にとってはありがたい内容でした。

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文殊仙寺の護摩焚き祈願

移動中には地元のツアー会社や、ボランティアの方からの地元視点のガイドと、BEPPU PROJECTのスタッフの方からのアート視点のガイドをいただけたのも非常に良かったです。おそらく、この地で制作に臨むアーティストも同じように、様々な方の視点をかりながらリサーチを行い、そこに自らの創造力を重ねて制作に取り組んだことなのでしょう。

山頂の岩場に沿って建つ五辻不動尊と同じように、海を見据えて堂々と佇むゴームリーの彫刻と、1300年持ち歩かれた、なんでもない石という、とんでもないコンセプトで「作品」というよりは「歴史」をつくる選択を提示した雨宮庸介のプロジェクトに、それを強く感じることができました。

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山頂の岩場に沿って建つ五辻不動尊

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アントニー・ゴームリーの作品は、雨風に晒され、時間をかけて変化していく鉄の彫刻
奥に見える山頂に五辻不動尊がある

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アーティスト・イン・レジデンス拠点となっている国見「集ういえ」

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雨宮庸介のプロジェクトは、現代人には「見る」ことができず「想像」することしかできない
そのためのテキスト

ゴームリーの作品は、確かに「こんなところに置いてしまって!」というインパクトが大きく、山岳仏教の団体から反対を受けるのも無理は無いなと思いました。しかしながら不動尊も人の手によりつくられたものではあるわけで、アーティストは神でも仏でもありませんが、この場所にものをつくって置いてしまうという感覚にはどこか共鳴するものがあると思いました。

そして手法としては従来のパブリックアートにすぎないとも言えますが、不動尊を再建した際に用いた技術も使いながら、この地に関わる方々や行政職員も一緒になってものをつくった、実現したということがやはり非常にアートプロジェクト的であり、なぜ今の時代にこれを行うのかということに応答できる価値を生み出していると思います。そして長い時間をかけて変化していく。時代が変わっても、この地について考える手がかりを更新し続けてくれるのかもしれません。

ちなみに作品の解説や設置の裏話については、ツアーに参加したから聞けたという部分ももちろんありますが、期間中は現地の最終ポイントまでのガイドやお休み処での展示、おせったいが行われていましたので、直接訪問をした方でも知ることができたと思います。作品のコンセプトや価値ある制作プロセスを伝える姿勢が素敵でした。

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ゴームリー作品・不動尊の近くにあるお休み処

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芸術祭や、ゴームリー作品の設置についての解説

といったわけでこの1日でも十分楽しむことが出来たのですが、翌日たまたまオフだったBEPPU PROJECTのOさんが車を出していたのに便乗させていただき再訪。熊野磨崖仏、田染荘、勅使川原三郎による並石プロジェクトなどをまわることができました。

飛行機の関係で、その後も仕事をしながら2日ほど別府に滞在していたのですが、その間にもplatformというBEPPU PROJECTが運営するスペースの普段の様子を見させていただいたり、スタッフの皆さんが代わる代わる食事に誘ってくださったり、温泉や食事を楽しんだりという感じで、充実した時間を過ごさせていただきました。このような調子ですから毎回楽しく、ここのところは毎年大分に足を運んでいます。

国東半島芸術祭は、2014年10月4日~11月30日(予定)、混浴温泉世界は2015年夏の開催予定だとのこと。どちらにも期待が膨らみます。