奈良県内各地のまちづくり団体などにより構成される実行委員会が主体となり、奈良県が共催する〈奈良・町家の芸術祭 はならぁと〉。2016年は、「はならぁと こあ」(キュレーターが統括するメインエリア)、「はならぁと ぷらす」(地元まちづくり団体が企画するサテライトエリア)、「はならぁと あらうんど」(地域密着・長期型アートプロジェクト)が展開されました。

10月に高取土佐町並みエリアにて開催された「はならぁと こあ」の様子をフォトレポートでご紹介します。

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舞台は城下町の趣あるまち並み。担当キュレーターに遠藤水城(HAPS代表/インディペンデント・キュレーター)を迎え、「町家の案山子(かかし)めぐり」との同時開催という点が今回の見どころです。

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まちのいたる所に、町民手作りの案山子(200体以上!)が置かれています。ご年配の皆様が中心に作っているという案山子、一体一体に強い愛着が感じられます。

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この長閑な風景に現代美術を組み合わせるのはどのような試みだったのでしょうか? 事務局長の飯村有加さんは、「今年はかなりのチャレンジでした」と、笑顔で答えます。

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地元に根ざした見世物として既に出来上がっていた「案山子めぐり」と現代美術展「はならぁと」は、内容と客層にギャップがあり、去年までは会期も異なる別々の催しとして位置づけられていました。

風穴を開けたのは、今年初めてキュレーションを務めた遠藤氏。強烈な案山子をひとつの舞台装置として美術作品と駆け引きさせ、独特の雰囲気を作り上げていました。

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石垣克子《旅行けば》

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浮遊感のある作品を眺める人々
と思いきや、

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、、かかし?!

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本山ゆかり《画用紙(柔道-右)》《柔道-左》

力強い「高取城写真展」を背景に、脱力感のある作品が並びます。

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島崎ろでぃー《2015.08.30 安保関連法案反対行動(国会前)》

かかしの「日常」と作品の「興奮」の対比に妙味。

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最後は、2階建ての日本家屋がまるごと展示会場です。

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雨宮庸介《集い(スケッチ)》

まずは、世界観を凝縮した1枚の絵と扇風機。

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雨宮庸介《木炭デッサンによる322枚からなる作品「併走論」》

次の間。

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異世界の入口を思わせるこの部屋の奥に、急な階段が。
そして、2階。

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何もない部屋に、扇風機だけが回っています。

あれほどあった案山子がここには一体もありません。
そのことで、静寂が深く、濃く感じられます。

遠藤氏は今回の展覧会を「多層の『人の集い』を意図した」と解説しています。

今回の実験的な「はならぁと」、「かかしを楽しみに来た人の中には、訳が分からんと戸惑う人もいた」との運営者談ですが、確かな「かかし」と「アート」の相互作用がありました。

地方自治体が運営する現代美術展が急激に増えている現状、正に「多層の集い」の葛藤へのアンサーとしても、一見の価値ある展覧会でした。


作品をひと通り巡ると、インスタントカメラで案山子と一緒に記念撮影をしていただけました

 

奈良・町家の芸術祭 はならぁと こあ

開催エリア : 高取土佐町並み(まちづくり団体:天の川実行委員会)
開催日程 : 2016年10月1日(土)〜10月31日(月)
開催時間 : 10:00〜16:00 入場無料
キュレーター : 遠藤水城
同時開催 : 第8回 町家の案山子めぐり
公式サイト http://hanarart.jp/2016/