このコーナーでは、本サイトの(暫定)編集長を務める橋本が、日々の仕事やリサーチを通しながら、様々な芸術祭やアートプロジェクト、表現活動について考えたことなどをご紹介していきます。

この編集長コラム、実は毎月更新を目標にしているのですがすっかり滞ってしまいました…
表記の通り、ちょうど2014年度の上半期分が空いてしまったということで、この間に足を運んで印象的だったアートプロジェクトなどについて記しておきたいと思います。

【4月】
吉原芸術大サービス http://yoshiwarasuperartservice.tumblr.com/
「ドヤ街」と呼ばれる山谷に隣接する遊郭街・吉原という”難しい”エリアを舞台にしたささやかなアートプロジェクト。同様に”難しい”とされている横浜の寿町で活動しているということもありのぞいてみましたが、よく分からないアーティストのエネルギーを元気な下町の人々が気持ちよく受け止めて新しい祭りを一緒につくっている、楽しい印象を受けました。
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白川昌生 ダダ、ダダ、ダ 地域に生きる想像力☆の力 http://www.artsmaebashi.jp/?p=3186
地域アートプロジェクトにも取り組むアートセンター「アーツ前橋」で行われた個展の関連イベント「木馬祭り」に合わせて足を運んできました。白川氏は独自の美学に基づいて活動してきた、知る人ぞ知るアーティスト。その活動の変遷やアートプロジェクトの領域とも近しいものを感じる最新の興味、前橋の歴史を参照しながら生み出したこの日のお祭りなどが紹介されていました。
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六本木アートナイト2014 http://www.roppongiartnight.com/2014/
六本木ヒルズ周辺を中心に西尾美也さんのプロジェクトなどを見てまわり、イベントは《アート型人生相談”六本木の父” ~相談しよう、そうしよう。~》の山城大督さんの回と、昨年度立ち上げに関わった「光の蘇生」プロジェクトの宮島達男さん×茂木健一郎さんのトーク+ワークショップに参加しました。今年で6回目となり、かなりポピュラーなフェスティバルになったと思いますが、今年はかなり玄人受けするアーティストも多く参加していたので不思議な光景を見ることができた気がします。
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五十嵐靖晃《くすかき》 http://igayasu.com/kusukaki/top.html
佐賀に用事があり、福岡を経由して無理矢理一泊。近年、様々なアートプロジェクトやコレクションに取り組んでいる、太宰府天満宮でアーティストの五十嵐さんが自発的にはじめたプロジェクトの様子をのぞいてきました。朝、夕と境内のクスノキの落ち葉を掻きます(掃除)。自然の営みと、天満宮で長らく行われて来た行為を重ねているだけ、とも言えるのですが、そこに着目し口実のようにプロジェクトに仕立て上げている様が素敵でした。
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【5月】
中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス http://ichihara-artmix.jp/
天気の悪かった3月のプレスツアーに引き続き訪問。コピーの「晴れたら市原、行こう!」の通り、やはり気持ちのよい天気にめぐりたいフェスティバルでした。美術関係者の間では、指輪ホテルの電車演劇、kosuge1-16のダム湖面を飛ぶ飛行機、栗林隆の凍りついた校長室、大巻伸嗣の古民家でのインスタレーションなど、強度のある作品がやはり話題になっていたでしょうか。EAT&ART TAROさんが、タイトル通り「おにぎりのため」にひどく派手な運動会をしかけていたことに驚き、その盛り上がりも伝聞に聞いて、これが隠れた名作だったのかなとも感じています。
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【6月】
Tokyo Art Research Lab(TARL) http://www.tarl.jp/
事務局長およびスクールマネージャーとして関わるTARL「思考と技術と対話の学校」開講。初回ガイダンスのゲストは、いちはらでも活躍したEAT&ART TAROさん。アートプロジェクトに携わる方、これから立ち上げたい方をメイン対象に考えていましたが、実際には多くのまずは「知りたい」という方に応募いただき、選考には苦労しました。それだけアートプロジェクトに興味、可能性を感じている、そしてやってみようと思う方が増えていることに驚き、この媒体もその役に立てていきたいという思いを強くしました。
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IDEA R LAB 西尾美也《町を縫う》 http://www.idea-r-lab.jp/?p=459
実家のある岡山県は倉敷市・玉島にできたクリエイティブ・リユースの拠点にて、六本木アートナイトでも活躍していた西尾さんのワークショップ。なかなかタイミングが合わず訪れる機会を逃していましたが、仕事の姫路出張を無理矢理利用して立ち寄ることが出来ました。ラボには決して贅沢ではないのだけど快適なレジデンス空間とおもてなしの精神があり、集まる人には自然と恊働の意識が芽生えます。そういったことがものづくりの質を高めるのだと実感。自分も久々に資料展示のための水糸を貼ってみたり、iPhoneアプリで記録映像を担当してみたり。玉島のまちの特性をふまえた西尾さんのプロジェクトも、回を重ねて多くの人が関わり、素敵な仕上がりとなっていました。

鞆の津ミュージアム〈ヤンキー人類学〉 http://abtm.jp/blog/287.html
倉敷からも意外に近い福山にできてまだ日が浅い、アール・ブリュットをテーマにした美術館…のかなり脱線した企画展。なんとアートトラックチャリティー撮影会なる、デコトラが集結して写真撮影をできるイベント開催の場に立ち会うことが出来ました。担当者に企画の背景を聞くと、やはりきっかけになった表現者がいるとのこと。撮影会は、企画が派生していってうまく開催にこじつけたものだそうです。いち美術館の企画展として見るにはもったいない、様々な意味で、パワーを感じる場所/企画でした。
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【7月】
空想する都市学 http://www.3331.jp/schedule/002490.html
小さな企画でしたが、3331 Arts Chiyoda内の小さなギャラリーで、ダイナミックなアートプロジェクトのプランや記録をプレゼンテーション展示するような内容。いわゆる「展覧会」と「アートプロジェクト」を見るお客さんは、けっこう分かれてしまっている気が個人的にはしているので、このような試みは増えていくといいなと思います。

東京迂回路研究トークシリーズ「迂回路をさぐる」 http://www.diver-sion.org/tokyo/program/talkseries/
今年は仕事でも〈ヨコハマ・パラトリエンナーレ(パラトリ)〉なんて言う、障害やケアをテーマにしたアートプロジェクトに関わっているということで、近しいテーマのプロジェクトやトークイベントなどにはできるだけ足を運ぶようにしています。参加したのは即興楽団UDje( )主宰、おどるボイスパフォーマーのナカガワエリさんの回。彼女がUDjeの活動をはじめる前に、音の出る平面の作品を展示しているのを見たことがあったのだけど、障害のある兄弟がいたりとその頃はいろいろ悩んでいる時期でもあったそうです。そんな話を聞いて当時の表現、いまの活動ともまたとらえ方が変わる部分もあって考えさせられました。

目【め】「 たよりない現実、この世界の在りか」 http://www.shiseidogroup.jp/gallery/exhibition/past/past2014_04.html
パラトリでもご一緒しているアーティスト・ユニットの資生堂ギャラリーでの個展。ささやかな妄想を具現化するために、かなり大がかりな仕掛けをしていて度肝を抜かれました。その背景にせまるようなインタビューがCINRA.NETにちょうど掲載されていて、合わせて楽しく読ませてもらいました。
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【8月】
ヨコハマトリエンナーレ2014 http://www.yokohamatriennale.jp/2014/
ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014 http://www.paratriennale.net/
法人/個人で関わっている2つのトリエンナーレが開幕。これらについてはまた別エントリをたてさせていただきたいと思います。
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黄金町バザール2014 http://koganecho.net/koganecho-bazaar-2014/
編集部スタッフと共にプレス発表+ツアーに参加。今年はアジアの若手アーティストの参加が多いということはよくわかりましたが、フェスティバルとしての今年のテーマを展示から読み込むことが難しく…どのように取り上げるのかは少々頭を悩ませる必要がありそうです。
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ミーツ・アート 森の玉手箱 http://www.hakone-oam.or.jp/information/meetsart_morinotamate.html
今年も開催される〈六甲ミーツ・アート 芸術散歩〉これまでの出品作家の選抜展といったところか。六甲とは異なり館内の展示が中心でした。半屋外の空間に、観客も刻印可能な作品を展開した谷山恭子さんが非常にうまいところをついていると思いました。日帰り可能な箱根ですが、美術館も近いHAKONE TENTというできたばかりのゲストハウスにあえて1泊。スタッフの方に展覧会をプッシュしておきました。
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札幌国際芸術祭2014 http://www.sapporo-internationalartfestival.jp/
仕事仲間やインターンと共に訪問。様々な方が言っていましたが、展示を軸に見るといわゆる「芸術祭」としてイメージしてしまうより規模感が小さいのと、新作率が低い内容でした。ゲストディレクターやキュレーターの編集視点を楽しむことを前提にした方がいいし、その点では見ごたえがあるとも言えたと思います。
サポーターの拠点となっていた札幌市資料館や、市街地のフリンジ企画、ガイドブック紹介スポットなどにも時間を使い、久しぶりの北海道を楽しませていただきました。滞在拠点とさせていただいたさっぽろ天神山アートスタジオの今後の活動にも期待したいと思います。
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【9月】
KOTOBUKIクリエイティブアクション「寿合宿」 http://creativeaction.jp/?p=477
企画に関わっている横浜・寿町でのアーティスト・イン・レジデンスのための勉強会と、参加者公募のための仕掛けがひと通り終了。上田假奈代さん、さめしまことえさん、芹沢高志さんらの協力を得て選出したアーティストの滞在制作が11月からはじまります。
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牛窓・亜細亜芸術交流祭 http://ushimado-asia.com/
日本におけるアートプロジェクトの起源を探っていると、牛窓での芸術祭が必ず出てくるのですが、それを参照した試み。蔡国強や川俣正、マリーナ・アブラモビッチ、ダニエル・ビュレンヌなど、名だたるアーティストが本当にこの地で発表していたんだ、とささやかながら実感を強くする資料中心の展示だけでも、岡山出身者としては足を運ぶ価値がありました。高校の同輩にあたるディレクターに案内してもらえたこともありますが、当時の鑑賞者と偶然一緒になり、オリーブ園でアブラモビッチがパフォーマンスしたかもしれない場所を歩いてみたりできたのも貴重な体験になりました。
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ART SETOUCHI 秋 http://setouchi-artfest.jp/news/post/2989
醤の郷+坂手港プロジェクト(アート小豆島・豊島2014) http://relational-tourism.jp/
TARLで昨年度ご一緒した岩田とも子さんが滞在制作する粟島と、7月にお話しいただいたばかりの多田智美さんが関わる小豆島の現場を訪問。また別エントリをたてさせていただきたいと思います。
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釜ヶ崎芸術大学 in ヨコトリ http://www.yokohamatriennale.jp/archive/2014/artist/k/artist418/
ヨコトリ内での展示はどうしても、このプロジェクトの魅力であるライブ感がうすれてしまうので楽しみにしていた、大阪からたくさんのスタッフやおっちゃんがかけつけてのTAKIDASHIカフェと講座の同時開催。平日のテント設営の手が足りないということで少しお手伝いもさせてもらいました。TAKIDASHIカフェは平和ぼけしたみなとみらいのど真ん中でやるわけですから、どうしても一見すると牧歌的な雰囲気になってしまっていましたが、そこに並ぶ多くの人がリアルにそれを必要としている人で(歩くと30分はかかる寿町からもかなり人が来ていた)複雑な気分になりました。とはいえ、取材のため途中抜けになってしまった講座・イベントの方も含めて、非常に有意義な機会だったと思います。
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こうふのまちの芸術祭2014 http://kofuart.net/
TARLの受講生が関わる現場へ、誘い合わせてはじめての山梨訪問。知らないまちを歩くのは楽しいです。今年は規模を非常にしぼったかたちだったらしくあっという間に見終えてしまいましたが、その分、オークションというアートプロジェクトの現場ではなかなか出会わないしかけもじっくり体験させてもらえたし、足を運ぶことのできなかった盆踊りイベントの時の映像を見せてもらったりしました。この規模だからの心地よさと、どう開いていくかという課題が同居する現場でした。
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現代アートの本当の見方 http://filmart.co.jp/books/nextcreator/2014-8-25mon/
フィルムアート社から『現代アートの本当の学び方』に続く書籍が発売。ちょっとだけ寄稿させていただいており、以下の恐ろしい問いについて書いています。いずれも短いテキストですが、思考を整理するよい機会になりました。
・美術館に行かないとダメですか?
・現代アートって本当に社会にとって必要なんでしょうか?
・アートプロジ ェクトは本当にコミュニティのためになっているのでしょうか?
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とっとり・おかやま 新橋館 http://www.torioka.com/
鳥取県と岡山県によるアンテナショップが新橋に9月28日オープン。30日には〈鳥取藝住祭2014〉トークもあり、そのディレクターの林曉甫さん、岡山県で行われている〈アート・ブリッヂ1301〉の参加アーティスト滝沢達史さんのお話しがあり、足を運びました。こういった場とアートプロジェクトの関係が深まるのはいいことですね。レストランも併設されており、近いうちにまた足を運びたいと思います。
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