大阪のまちをアーティストの発表の場として「カンヴァス」に見立てて、公募により様々なアートプロジェクトを行う〈おおさかカンヴァス推進事業(以下、カンヴァス)〉。2010年度にはじまり、2016年度は万博記念公園「太陽の広場」を中心に、10月22日(土)〜10月30日(日)まで開催されました。

今回の特徴は、メイン会場となる広場にそびえ立つ岡本太郎《太陽の塔》にちなみ、「おい、太陽。」というキャッチコピーで公募されて実現した、アピール力のある体験型の作品やパフォーマンス。それぞれが相乗効果を生み出し、広場に祝祭的な雰囲気を生み出していました。

 

多く人々の心を捉える表現

木崎公隆・山脇弘道からなるアートユニットYotta(ヨタ)による《穀(たなつ)》は、カスタマイズした車両に「大砲型ポン菓子機」を積載した作品。人を殺める戦車を思わせる装置から爆発音が発せられると、出来上がるのは戦時中の食糧難の中で生まれたとされているポン菓子。派手なパフォーマンスと食という親しみやすさから、公園を訪れていた多くの人々の興味を集めつつ、岡本太郎の「対極主義」にもつながる「生と死」を巧みに表現していました。

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Photo:Yuki Moriya

Yottaは2010年に「Yotta Groove(ヨタ グルーヴ)として結成(2013年にYottaへ改名)。2010年のカンヴァスで、高さ13mのこけしをモチーフにした《イッテキマスNIPPONシリーズ”花子”》を中之島公園で発表しています。カンヴァスでの発表作品を国内各地でも展開し、複数回の参加を経ることで着実にアーティストとしての実力をつけてきたと言えるでしょう。

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Yotta Groove《イッテキマスNIPPONシリーズ”花子”》
2011年3月12日、13日、19日、20日、21日/中之島公園
2012年10月13日〜21日/中之島公園(リバイバル展示)

「今回は《太陽の塔》という絶対的な作品に対峙してつくるということで、アーティストとしての力が試されたと思います。」とは本人たちの談。

子供の頃の原風景の記憶、サブカルチャーの影響を受けて育った自分たちが「面白い」と思えるものをダイナミックな手法で扱い多くの人々の心を捉えるYottaの表現は、公共空間を舞台にしてきたカンヴァスにおいて象徴的です。

 

身体を使って空間に向き合う表現

ちびがっつ《太陽の人》は、生身の人間である作者が全身にペイントし、太陽の塔になりきって立ち続けるという作品。太陽の塔と対峙する真摯な姿勢と、「がっつ!」と呼びかけるとリアクションしてくれるパフォーマンスのギャップが人気を集めていました。

ちびがっつ自らの姿だけではなく、彼の行為に触発された来場者からの呼びかけや、声の掛け合いまでも含めたパフォーマンスのような状況が生まれていました。

取材にうかがった土日は人出の多い公園でしたが、「平日は一転して声をかける人がいなくなり、孤独な戦いになると思います」と、ちびがっつは気持ちを引き締めていました。(しかし、平日も子供のリピーターが来るなど、予想に反して掛け声が鳴り止まなかったそうです)

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Photo:Yuki Moriya

カンヴァスでは高橋匡太(2010年度)、淀川テクニック(2010,2012年度)、西野達(2011,2012,2013年度)などビジュアル表現を切り口にしたアーティストの活躍が注目を集めてきましたが、MuDA(2013年度)、スイッチ総研(2015年度)など、身体を使って都市空間に関わるパフォーマンス作品も多く発表されてきています。

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スイッチ総研《道頓堀スイッチ》

 

アーティストだけではない人々の視点

松蔭中学校・高等学校美術部による《おおさか福笑い》は、バルーンで制作した目鼻口を空中に放ち、その位置を決める参加型の巨大な福笑いパフォーマンス。太陽の塔と大空を背景に「空中で何かしてみたい」というアイデアを10数名の美術部員でふくらませてかたちにしたそうです。会場でのお客さんの呼び込み、バルーンをあげるまで、掛け声などの様々な演出が検討され、完成度の高いパフォーマンスに仕上がっていました。

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Photo:Yuki Moriya

応募のきっかけは顧問の先生の「美術にも様々なかたちがあることを知ってもらいたい」という思いでした。与えられた条件の中で「来場者を楽しませたい」と女子中高生ならではの視点で制作された作品は、先生の想像を超える仕上がりとなった様子でした。

カンヴァスでは、このような学生チームをはじめ、PR会社、照明デザイン工房など、アーティストだけではない人々の提案によるプロジェクトにも取り組んできました。審査員にも、アーティストだけでなく、幅広い専門性の方が名を連ねています。回を重ねるごとに、多様な方からの提案が増えてきたとのこと。カンヴァスの実験精神が、様々な人々の創造性を刺激してきたと言えるのでしょう。

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Class株式会社《ローリングスシー》

今回は、ほかにも巨大な万華鏡に太陽の塔を取り込む井口雄介《KALEIDO-SC@PE(カレイドスケープ)》、自由にかぶれるたくさんの「カブリもの」で広場をにぎわせたニシハラ☆ノリオ《太陽の根っ子のカブリくち》、《明日の神話》をモチーフにして大型絵画を制作した種(天王寺学館高等学校芸術コースを中心とした若手美術集団)《○△□の神話》、大阪芸術大学《命根樹立(めいこんじゅりつ)》が参加。岡本太郎という存在がひとつのキーになりながら、それに魅せられた多様なアーティストやチームの創造性が発揮され、エンターテイメント性の高い空間をつくりあげることに成功していました。

 

都市空間における可能性

公共空間でアートプロジェクトを行う際には、様々な法令や条例に従いながら制作を進める必要があります。カンヴァスでは、それをアーティスト任せにするのではなく、主催者である大阪府内にある事務局や制作チームが様々な形でサポートしてきました。

例えば西野達《中之島ホテル》では建築基準法、旅館業法などの解釈を府内の様々な部署と共に検討。Yotta Groove《イッテキマスNIPPONシリーズ”花子”》では、設置場所近くを走る高速道路からの視野を風船で検証し、警察による許可制限を3mから13mの高さまで引き上げることに成功しました。

事業を担当してきた寺浦薫(大阪府府民文化部 都市魅力創造局 文化・スポーツ課 主任研究員)は、「都市空間は様々に必要な規制があふれているが、時代により解釈が変わっていくもの、変えていく必要のあるものもある。カンヴァスを通してそれが見えてきたり、都市の使い方の幅が広がり、いつもの風景を変えることができるのは面白い。都市との関わりの中で何ができるのか。アーティストにも力を持って欲しい。」と語る。

今回は、2014年より国から府に管理が移った万博記念公園が主な会場ということでそこまでの難しさはなかったと言いますが、これまでには中之島公園、道頓堀川、路上(御堂筋)など、アートプロジェクトを行うには非常にハードルの高い公共空間が活用されてきました。

当然、妥協せざるをえないこともあったということですが、そのひとつひとつは、都市空間における可能性を試みた貴重な実験であり、ノウハウの蓄積だと言えます。

カンヴァスとしての事業は今年度で終了するということですが、過去に取り組まれた作品のウェブアーカイブが充実しており、一部の作品ではそれが実現するまでのプロセスや、協力先、協議先などが詳しく公開されています。7年間の貴重な取り組みは様々な人の手により確実に引き継がれ、今後の大阪のアートシーンをつくりあげていくことでしょう。

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西野達《中之島ホテル》

 

おおさかカンヴァス推進事業2016

会期:2016年10月22日(土)~10月30日(日)
場所:万博記念公園の「太陽の広場」を中心とするエリア、EXPOCITY、万博記念公園駅
主催:大阪府

公式サイト http://osaka-canvas.jp/